あー、長らくブログの更新をサボってしまった。
はじめに。
2018年12月初旬現在、秋頃からポツポツネット上で「ソニーのカメラでファイルが消える!?」といった話が流れ始めました。たまたま私が目にしたそれらの文字列は、ほぼ知人友人関係でした。ソニーエバンジェリストを自称していることもあってか、私の元にも相談が入りました。
流れを追っていくと、なぜか同時多発的に発生し、複数のSNSで「不具合」の報告が上がりました。根本的な事象は、「カメラがフリーズした」あるいは「データが消えた」と言うことです。これらはひとつの同じ事象ではなく、複数の枝があるように感じました。
話を総合してみました。フリーズ前にカメラの挙動がおかしくなったこと。SDカードとの相性(と一旦書きます)による書き込み不良。フリーズ現象を解消しようとしてエラーメッセージ通りに実行したら、撮影データ閲覧が不可になった。そして、何かの拍子にリセットされて、撮影データが閲覧不可となった。という内容です。この内私も多少の検証に参加した部分についてクローズアップし、最終的にユーザーとしてどの様なことをするべきか、について書きたいと思います。
順を追って特に「カメラのフリーズ」とその後の状況を説明します。
私が見聞した主な事象は、撮影中にカメラがフリーズし、本体電源オフも効かない状態となる。よってバッテリーを抜くしかない。撮影は続いているためにそのままバッテリーを抜き差ししてカメラを起動させると、液晶画面に「メモリーカードへの書き込みが正常に終了しませんでした。データを修復しますか?スロット1」あるいは、「管理ファイルに不整合が見つかりました。修復しますか?スロット1」ダブルスロットを使っている場合は続けて「スロット2」の修復へ続く、などのエラーメッセージが出ました。現場ですし、そのまま「実行」を行うと、管理ファイルの修復が行われ、それまで撮影したデータを確認するべく再生ボタンを押すと「ファイルはありません」となる。「消えた!」とパニック。
という重大インシデントの発生です。あえてインシデントと書いたのは、SDカードをパソコンでデータ救出アプリケーションなどでサルベージすると残っていることが大半だからです。これについては後述します。すなわち、一部で流れている「勝手にフォーマットされた!」と言うことは、はっきり言ってミスリードでしょう。「フォーマット」と「管理ファイル修復」は、確かにそれまで撮影していた写真データが確認できないことは同じですか、「SDカード内のデータを完全に消去してデータを受け入れる仕様をカードへ書き込むための命令文であるフォーマット」と、「データ管理をしている管理ファイルが何らかの要因で破損し、修復によってリセットされたこと」と言うように意味が異なります。そして重要なことは、カメラの仕様として「操作者の意思に関係なく勝手に、不具合が起きたら自動的にフォーマットをする」と言うモードは搭載されていません。
これらのインシデントに関しては、様々な要因が考えられます。12月7日こちらのリンク先の通りソニーとしてもリリースを出し、現在非常に高度なチームで対応に入っていることをご承知ください。
実際に「どのような状況条件下でこのようなフリーズ現象が発生するか」については、言及を控えます。重要なことは、このようなことが撮影中に発生した場合、「どのような対処をして撮影を続行するか」という知識を蓄えておくことの方が重要だと私は考えます。その対処法について以下に書いて行きます。
またこの手の何らかの要因で「カメラがフリーズしてバッテリーを抜く」またそれに続く様々な事案についてですが、私の経験上どのメーカーのカメラでも発生しています。私自身が遭遇したのは、キヤノン、ニコン、フジ、コダック、リーフなどです。ソニーに限ったことではないことを、頭の片隅に留めて欲しいです。
加えて重要なことは、今回の複数のインシデントに対して「カメラメーカーへクレームをする」とか「もうこのメーカーのカメラは信じられない!」と騒ぐことは、プロカメラマンとしてもカメラ好き写真好きなおっちゃんとして「違う」と考えています。
デジタルカメラについて必要な知識。
さて、現在発売されているデジタルカメラは全て、「貴方が考えているほど完璧な機械ではない」ということを自覚して使うより他がないことを心に留めてほしいと、1998年のデジタルカメラ開発期からデジタルカメラに付き合っている私は考えています。
当該インシデントに対して声をSNS等であげた皆様の気持ちは、私も痛いほどわかっているつもりです。これは私の想像ですが、「修復ってメッセージが出たのに、データが消えてなくなった(というカメラ表示の雰囲気であり、パソコンでSDカードの中を確認できない現場では特に感じるでしょう)のは酷すぎる」ということだと存じます。ただ残念ながらこれはメーカー側とユーザー側のボタンの掛け違えとも言えるのです。カメラとしては「不具合あるメディアを正常に使うために管理ファイルを修復する」だけであって、実行後は確かに正常に戻ります。しかしこの動作は、管理ファイル(インデックスファイル)がリセットされるわけで、ユーザーにとって大切なことである、「撮影したデータを修復して欲しい」ということと意味が異なるからです。撮影現場で「消えた?」という衝撃は何者にも変えられない動揺ですから、瞬間的に正常な判断ができない、と言うことももちろん理解しています。
では、当該インシデントに遭遇したときの対処法を周知いたします。
原因は何であれ、もっと言えばカメラメーカーは何であれ、デジタルカメラがフリーズしたら、次の行動を冷静に取ってください。
- SDカードなどメディア挿入口付近にある、書き込みランプが点灯しているか確認する。
- 点灯していた場合、例えば連写をしている途中などで書き込み完了していない数カットは諦めてください。
- 速やかにバッテリーを抜く。
- できれば30秒ぐらい待つ。
- バッテリーを抜いたまま、SDカードなどのメディアを抜く。
- このメディアは交換し、パソコンでデータをバックアップするまでカメラに入れないよう保存する。
- 新しいメディアをカメラへ入れる。
- バッテリーを入れて、カメラを起動する。
以上です。
ポイントは5と6番です。カメラは書き込み途中で何らかの要因で止まり、何らかの原因で書き込みを完了していないのですから、数枚は永遠に消えてしまっています。それら数枚よりもそれ以前に撮った写真を大切にして欲しいと思います。
3番は後述と矛盾しますが、この場合「待っていても回復しない」ということが前提です。であるならば、意を決してバッテリーを抜きましょう。
7番ですが、私は少なくとも「プロフェッショナルである」と自覚しています。そのため撮影に望む際には、自分でできる最善を尽くす様に心がけています。カードの1枚や2枚、使わなくとも現場へ持ち込まなければいけないと思っています。カメラだって、2台3台並行して使うのは、撮影のクオリティ向上に対応することでもありますが、「もしも何かあった時」に対応するための意味でもあります。最悪な事態は避けることが求められる職業であると考えるからです。
もちろんアマチュアの写真が趣味、好きな人であっても同じ様に「カメラは完全な機械ではない」と言う気持ちでいて欲しいと思います。複数のカメラは無理だとしても、数千円で購入できるメディアを複数枚持ち歩くことは、苦行ではなく必要なことだと考えて欲しいです。
また繰り返しですが、「管理ファイルの修復」等によるカード内情報のリセットは、パソコンで言う所の「ゴミ箱へ入れた」状態であり、直接的にデータ本体が消去された訳ではありません。例えばカードメディアに付属してくる様な「復旧アプリケーション」等にて、データを呼び出すこと(書き込み未完了を除く)は可能性が高いことと考えてください。高いということは、復旧(サルベージ)できない状態が発生することもあるということも記憶してください。
この様なインシデントは、そうそう頻繁に発生しないと思っています。しかしどんなカメラでも発生する可能性は、あります。起きたときにどれだけ冷静に対応できるかが、ユーザー側に求められることだと考えています。
ここまでが、インシデント内容と、現時点で自分ができる対処方法です。以下は私のデジタルカメラに対する取り組み方の話ですから、読みたい方のみお進みください。また、読んで私と違う考えを貴方自身が持っていて「それは違うだろ!」と言われても困りますので、ご了承の上お読みください。
デジタルカメラの「作法」を考える。
10数年前ですが、ニコンのサービスを長年やられていた川田さんという方が「社長を出せ! 実録クレームとの死闘」という本がありました。めちゃくちゃなクレームについて、どの様な対応をしてきたかという内容です。面白いです。お勧めです。
デジタルカメラの記録はデータ、つまり電磁的な内容が記録メディアに書き出されていますが、フィルムは現像しなければ記録した映像を手にすることはできません。そのフィルムを使っていた頃の話です。写真を撮るという行程の中に、「撮影後にフィルムを巻き上げてパトローネの中にしまう」という作業が必要としてあります。あるカメラは、巻き上げクランクを引っ張り上げるとカメラの裏蓋が開く仕様でした。操作を誤って巻き上げ中に裏蓋を開いてしまったら、フィルムに光が当たって、全てがパァです。
この事例は、カメラメーカーの設計の責任でしょうか。私は違うと思います。
今この文章を読んでいる方の大半は、デジタルカメラをお使いでもしかしたらフィルムカメラを使ったことがない方もいらっしゃるのではないかと思います。したがって、文章がややしつこいです。
私として「完全ではないカメラ」にプラスして自覚して欲しいと願うことは、「デジタルカメラは既にコンピューターを持ち歩いていることと同義語である」ということです。フィルムカメラだって、先の通り撮影後のフィルムを巻き上げるという操作方法に「作法」がある様に、デジタルカメラだって取り扱いにだって「作法」があります。次にあげる「作法」の話をすると、相手がプロであっても「ええ?ホント?」となる場合があるので、以下の数点をできれば心に留めてカメラを操作して欲しいです。
A. レンズ交換する場合は、電源をオフにしましょう。まさか!?と思う方もいるかもしれませんが、プロでもいました。デジタルカメラとその対応レンズは常に接点で通信していると思ってください。それをいきなり切ったら、不具合が発生してもおかしくないですよね。
B. 同様に、記録メディアを交換するときは、必ず電源をオフにしましょう。例えばパソコンでUSBメモリーを使うときには必ず、「取り出す」という工程を踏みますね。全く同じと思ってください。いきなり記録メディアを抜いたら、不具合が発生してもおかしくないですよね。
C. レンズ交換でもうひとつ。レンズ交換をするときは、光学手ぶれ補正内蔵式レンズの場合は特に、電源をオフにする前にAF動作などをしていない状態であることを確認し、電源をオフにしてから数秒待ってから、マウントより外しましょう。光学手ぶれ補正内蔵式レンズとは、鏡筒内で補正のためのレンズがふわふわ浮いている、というイメージを持っていてください。AF駆動していないとき、そして電源がオフになったとき、レンズは正位置に戻ってカチャッと固定される、という動作をします。この補正レンズが外れたままレンズ本体を振ると、かちゃかちゃ補正レンズが動きます。レンズが動くことができる状態で持ち歩いたならば、今後ピントずれなどの不具合が発生してもおかしくないですよね。
D. 電源オンの直後の動作について。電源オン直後には軽い一呼吸を置いてから操作を開始しましょう。カメラ内の各種機能に電源を供給し、撮影スタンバイ状態になるまでには、待機中よりも電力を使います。電源が行き渡っていないのに動かそうとしても動かないんだ、ってイメージを持っていた方がより安全です。早く撮影しようと電源オン後のエネルギーを様々に分け合っている際に無理やり動作させようとして、各所の動きが悪くなって不具合が発生してもおかしくないですよね。
E. 記録メディアの使い方についてです。撮影を開始する際は、必ず「フォーマット」をしてからスタートしましょう。ソニーには、メディア内のデータを「全て消去する」というコマンドがありません。他メーカーでは「全削除」があるカメラもあります。私はデジタルカメラを20年以上前から使い始めましたが、当時から必ず「フォーマット」してから撮影開始しますが、これまたプロの中にも「フォーマットじゃなくて、消去してからメディアの空きを作る」という方がいました。メディア内の状態を説明するにはページが膨大なので割愛ですが、消去とフォーマットはイコールではないことを知ってください。消去を繰り返して、新しい写真を書き込みするやり方は、カード内に記録されるデータのインデックス(ソニー風にいうと管理ファイル)が狂う可能性を秘めてしまいます。例えるなら、フォーマットとは、本棚から本を全て撤去して、新しい本を入れるスペースを作ることです。消去とは、とりあえずこの本は捨ててもいいや、という目印をつけておくことです。フォーマットすれば、中は空っぽなので、データが来た順に整列しますが、消去は目印なので、10巻セットまで入る場所に、一旦どけて8巻セットを入れ、次にきた12巻セットを2冊だけ入れて残りを別の店へしまう、様なイメージです。ぐちゃぐちゃになります。ぐちゃぐちゃなデータを繰り返して使用していたならば、不具合が発生してもおかしくないですよね。
F. これらは私の作法ですが、デジタルカメラを扱う方々へぜひ推奨したい「作法」です。アマチュアも時にプロでも次の様なことをする方がいます。撮影中に再生して、「いらない」と判断したカットを消去することは、私はやりません。どんなに「これは不要だなぁ」と思っても、仮に間違ってシャッターを切って、ブレた床を撮ってしまったとしても、消しません。帰宅後に全てを丸ごとパソコンでバックアップするまで、カメラで消去はいたしません。もしも再生に気を取られて良い瞬間を逃したくはない、何枚撮影しても、メディアがあればなんとでもなる、などの理由に加えて、もしも間違った操作をして必要な写真を消去してしまったら、精神状態はパニックになります。それが原因となって、不具合どころか撮影に支障が出る様なことになってもおかしくないですよね。
G. バッテリー交換の際は、電源オフにしてから数秒待ってバッテリーを外しましょう。特にソニー製カメラの場合は仕様として、直前に設定していた各種数値は、電源オフの際に瞬間的にメモリーされます。その電源は当然バッテリーです。強制的に電源オフで即バッテリーを抜くと、それがメモリーされないために、交換前に設定していたシャッタースピード、絞り値、ISOスピードなどがリセットされてしまいます。電源オフ後にカメラに耳を当てていると、しばらくは何かが動いているような音が聞こえるカメラもあるでしょう。一度試して経験することも重要です。パソコンであってもシャットダウンのクリックをしてからしばらくは動いていますよね。デジタルカメラも同じことなので、これを怠ると不具合が発生してもおかしくないですよね。
以上の、まぁ特に電源のオンとオフに関しての「作法」とは、「少々ゆっくりと落ち着いて行動することがデジタルカメラを扱う上で必要なことである」ということです。強く言うならば、デジタルカメラの操作リスク管理としては必須なことじゃないかなと思っています。
次に書くことは、誤解なきようお読みください。
今回のソニーカメラ、特に新型バッテリー(NP-FZ100)を使う3種類の「a7M3、a7RM3、a9」といったカメラについての重大インシデント発生、その多くが撮影中にフリーズを経験し、その後のカメラの「修復」という指示を信じて操作した結果、「実行」を押してSDカード自体は修復されたけど、ファイル名などをリスト化している「管理ファイル」がリセットしたため、データは消えて(見かけ上)しまった。
多くの「怒っている!」と声をあげた人は、メーカー、つまりソニーに対して「不具合が発生するカメラなんて!」としている様子も見られるのですが、私は全面的に責任がソニーにあるという考えは違うと思います。
なぜか。
デジタルカメラは完全な機械ではなく、不具合とはどんな場合でも発生しうる。
エラーコードの「修復しますか」とは、撮影したデータが主語ではない。
フォーマットを命令した時に使われる時間と、管理ファイルの修復で使われる時間が異なるため、判断材料となりうる。
そもそも、撮影データは簡単に飛ぶ(消える)可能性があることを知っている。
カメラの操作をしているのは、自分自身である。
私自身は四半世紀以上様々なメーカーのデジタルカメラを使ってきて、何度も何度もデータがすっ飛ぶという経験をしてきました。その経験でわかったことは、自分が使っているデジタルカメラがどの様に動くのか、注意を払って知っておくことが、1番のリスク回避だと思うようになったのです。加えて、もしもカメラ側で撮影データの確認が取れない場合、少しでもデータを助ける方法として、「MacとWindowsの両機種で複数のファイル復旧アプリケーション」を使うような環境設定をしています。カメラを知ることに合わせてデータとは何かを知ること、これらも必要なスキルだと考えています。
先の例えの様に「フィルムを巻き上げていないのに裏蓋が開く仕様だから、自分の操作ミスじゃなくて、メーカーの製造責任だ」というのは、やっぱり違うんじゃないかと思うわけです。
ソニーエバンジェリスト(自称)として大好きな「アルファ」という名のデジタルカメラを色々な人にお勧めしていますが、その際に私が必ず話をしていることのひとつに「とても多機能なカメラなので、必ず付属のマニュアルを読破してください。ソニーのサイトにあるヘルプガイドも目を通してください」としています。ですが大半の方は「はいはい」というものの、後で「これってどう操作するの?」と聞いて来るケースが結構あります。別に私は苦ではないので、もちろん聞かれればお答えしています。でも大抵は「マニュアルに書いてあるんだけどね」と思っちゃいますし、「マニュアルの◎ページをご覧ください」とお伝えします。なぜマニュアルを読破することが重要なのかとは、多機能な部分を理解して使いこなせれば、もっともっと素晴らしい機会を提供してくれるカメラだからです。
もちろん当該インシデントは、マニュアルに対処方法が載っているわけではありません。できればマニュアルの作りも改善して欲しいと願ってソニーには申請しています。今回多く見られたインシデントは、ハードなのかソフトなのかの設計にもしかしたらバグがあるかもしれない、あるいは超越した段階でたまたま発生したことかもしれないという、メーカーにとっても想定外のインシデントです。これらの様なことにぶつかってしまったなら、どの様に対処すれば撮影中のデータやカメラ自身に対する「最悪のケースは避けられるかもしれない」という行動をとるべきだと信じていますので、このブログを書きました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
追伸(2018年12月8日)
デジタルカメラを使う上でもっとも重要なことを書き忘れておりました。
バッテリーは純正以外使用してはダメ。絶対にダメ。
大事なカメラが壊れても、知らないからね。
以上です。
後半はデジタルカメラ全般に通じる非常に重要なアドバイスだと思います。
非常に有益な記事をありがとうございます。
コメントありがとうございます!
電池不要、すべて手動のライカだって、例えばフィルムの入れ方を間違えるとフィルムが噛んじゃいますよね。
知って使うことって、やはり重要なんだと思います。